工場は家庭のリビングの片隅に置かれている時代になる
デジタル編み機というと、おもちゃの編み機を思い出すかもしれないが、「OpenKnit」は、まるで工場のような技術をもった編み機だ。
しかも、OpenKnitは、オープンソースで開発され、コストは550ユーロ(約7万7000円)以下と、かなりのローコスト。
さらには、ユーザーの体型にジャストサイズのオーダーメイド服を、デジタルファイルを用いて、およそ1時間で作り出すことができるという優れもの。
オープンソースで開発された3Dプリンタ「RepRap」プロジェクトに触発され、OpenKnitは生まれた。
「RepRap」プロジェクトは、すべての情報が公開されており、誰でもプロジェクトに参加することが可能だ。
日本では、RepRap系3Dプリンターのコミュニティ「RepRap Community Japan」が存在し、自分で3Dプリンターを作るワークショップ「Genkei」もある。
愛好家というよりも、職人技のような素晴らしさだ。
OpenKnit開発者のGerard Rubio氏によれば、現在衣料業界で行われている発展途上国生産の大量生産・大量消費・低価格に変わる生産モデルとして、服をデザインし、作り出すということをデジタルで行い、着ることを楽しむことを1つの場所で可能にするという。
OpenKnitの部品は3Dプリンタで作られ、センサーやモーター、編み針などで構成される。
そして、制御ソフト「Knitic」でデザインされ、カスタマイズされた服を出力するという仕組み。
OpenKnitの設計図や部品データ、マニュアルなどはGithub上で共有されている。
「これ、すごい!」というコメントに、「ここからデータが取れるよ」と、コメントを返し、ダウンロードできるデータを惜しみなく提供している。
衣類のデータ共有サイト「Do Knit Yourself」では、作った服の写真をアップするオープンソースの服のプラットフォームで、バーチャルな洋服屋で好みの服を選び、そのデータをダウンロードし、自分のOpenKnitで製作することができる。
昔は、その地に住む編み物上手な方が、自分の子や、近所の人たちに、好きな色、デザインなどを聞いて、かぎ針や、棒針を用いて、長い時間をかけてセーターなどを編んでいた。
いわば、特殊技能に近いものであったが、これからは、データを駆使して、手編みでも出せなかった風合いや色使い、デザインが生み出されていくだろう。
しかも、ユーザーは、服そのものを買うのではなく、デザインを無料で共有でき、選んだ色や工夫で、誰かと同じ服ではなく、オンリーワンの服を手に入れることもできるようになる。
ファッションの世界の流通を変えてしまうかもしれない。
ユニクロは生産コストを下げ、低価格で勝負をしてきた。
OpenKnitは、流通コストがなくなる事業モデルを作り出していくのだろう。
Amazonも、流通コストを下げるために、ロボット開発に投資をしている。
RepRapのように、3Dプリンター自体を向上させながら組み立て、それを使うためのデータを共有し合うのと同じく、OpenKnitも、性能を高め、データも高度になっていけば、ファッションのあり方そのものを変えてしまうかもしれない。
インターネットというオープンなインフラが定着した。
グローバルな目をもつビジネスプロデューサーにとって、このインフラを上手く使い、コミュニティの中で、事業が勝手に成長するという事業モデルは、どのような業界においても、21世紀の新しい事業モデルとして歓迎されるのではないだろうか。