For JAPAN-日本という観点をもって企業の成長を後押しする
グローバルビジネスでは日本という観点をもつこと
産業革新機構 マネージングディレクターの 高橋 真一 氏にインタビューのお時間をいただきました。
高橋 真一 氏 プロフィール
44歳。 香川県出身。 銀行員の父の仕事の関係で、生後3カ月で渡英。 家族で海外と東京を行き来する生活を送る。 中学生時代、桐蔭学園の文武両道にふれ、その後、オーストラリアで中学高校時代を過ごし、一橋大学に進学。 卒業後、三菱商事に入社。同社では投融資審査部、企業投資部に9年、大学院留学2年を経て、2005年から英国ロンドンを本拠とするヨーロッパ最大規模のプライベート・エクイティ・ファンド(投資ファンド)ペルミラ・アドバイザーズに。2009年7月に株式会社産業革新機構へ参画。 現在、投資事業グループ マネージングディレクターとして活躍中。
株式会社 産業革新機構(さんぎょうかくしんきこう)は、旧産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法(産業再生法)・現在の産業競争力強化法に基づき設立された官民出資の投資ファンド。最大2兆円規模の投資能力を持つ。
インタビュアー 小幡万里子(以下小幡):高橋さんのご経歴を拝見すると、まさに「投資」関係のお仕事がライフワークのようにお見受けいたします。高橋さんにとって、産業革新機構での「やりがい」とは?
高橋真一氏(以下高橋 敬称略):国からの資金ということで、通常の投資会社でも、外資系投資会社でも、民間では検討できない案件を扱えるのでやりがいがありますね。業種は幅広くテクノロジー、コンテンツ、医療、エネルギーなど、面白い局面で仕事ができていると思います。
たとえばジャパンディスプレイ(注1)のように、三社のディスプレイ事業を統合して、新しい会社を作るといったような業界再編型の案件は産業革新機構ならではだと思います。
(注1)株式会社ジャパンディスプレイ(Japan Display Inc.)は、ソニー株式会社・株式会社東芝・株式会社日立製作所の中小型液晶ディスプレイ事業を統合した会社。産業革新機構が第三者割当増資で2000億円を出資し設立された。
小幡:過去、日本を引っ張ってきた企業が自力では経営が難しい時代になったと感じられますか?
高橋:それは感じませんね。過去の日本の産業を引っ張ってきたエレクトロニクスなどの業界を例に取ると、単純に世界の競合企業が日本に追いついてきたということだと思います。
日本企業が悪くなったというよりも、特にアジア、中国・韓国・台湾などの主力企業が力を蓄え、純粋に競争が激化してきたということです。こうした現実の中で、組織も戦略も古いままで世界と戦うやり方では厳しいということです。
30年前のやり方を続ける日本企業では経営陣が即決できない一方、韓国・台湾などのオーナー企業は、迅速な経営判断ができます。経営のスピードが非常に速い。こうした世界のビジネス体質というものを理解し、世界が競合という新しい競争環境においては、新しい戦い方があるはずです。その戦略を立てることが、これからの日本の課題でしょう。これまで国内で競合していた企業同士が一つになって世界と戦うとか。もちろん、他の闘い方もあるでしょう。
業界毎に個別に考えていく必要はありますが、決して日本が負けているというわけではないと思います。
小幡:投資案件では資金を投資するだけでなく、経営にも参加されるのですか?
高橋:はい。通常どの投資先でも非常勤で社外取締役として参画します。取締役会等の重要会議体へ参加をし、経営陣に対して意見を言います。取締役会では、出資相応な、70%なら70%の関与、40%なら40%の関与をするというスタンスです。
経営について、イエス・ノーの判断や、自分がもっているもの(人脈など)を提供するなど、求められているものを適切に提供するという感じですね。
投資先に対してはこの様なハンズオン(注2)スタイルで経営参画しています。
(注2)ハンズオンとは、企業買収や投資を行う際に、その後にどのくらいマネジメントに関与するかを表現する言葉。自ら社長や社外取締役などを派遣し、経営に深く関与するスタイルが「ハンズオン」
小幡:社外取締役として困ったこととかありますか?
高橋:困る事はありませんが、投資先の経営では小さなものから大きな問題までいろいろ起こります。
株主間或いは経営陣との間にて意見が異なったり、対立するケースなどはどの投資案件でもあります。そうした中では、産業革新機構は投資会社なので、中立性を保てる点が特徴だと思います。自社の事業をもっていない投資会社なので、自社事業メリットを最優先にするというよりも、客観的に、その対象会社の事業にとって最も適切な判断をすることを第一優先としています。
これらの日々のやり取りの結果として経営陣の交代や強化を提案する事もあります。こうした小さな経営判断の連続が経営そのものなので、経営に直接関わっているともいえますね。
小幡:ファシリテーターというような存在ですか?
高橋:取締役会では、経営陣がいて、私は株主である自分の所属する会社の代表として出席します。
出資を守るという目的がありますので、所属する会社の意思決定の元に参加し、発言をしているので、ファシリテーターのように、すべてにおいて中立的な立場が取れているかというと、それは分かりません。
産業革新機構のキーワードは「成長投資」なんですね。すべての産業でどう新しい成長を起こすか、「成長シナリオ」を創り出すことが設立趣旨です。それをファシリテーターとも呼べるかもしれません。
オープンイノベーションをプロデュースできる人財が求められている
小幡:当協会(一般社団法人日本ビジネスプロデューサー協会-BPA)にも、技術系の大企業の人事の方が見えられて、「自社の社員の中から、新規事業を生み出す者が出てこない。どうしたら、ビジネスプロデューサーのような人材が育つのか」というご相談をされたことがありました。
結局、組織の中に入ってしまうと、そこから新しいものを生み出せる人が出てこない状態になってしまっているのだと思います。創業期は、とにかくないもの尽くしの中、チャレンジの繰り返しで、アイデアもどんどん出てきて、それにトライする気持ちもあると思うのですが、安定した中で「もう危ないぞ!」といわれても、自分のこと、自分の会社のこととして、真剣に受け止められない方が大半なのですよね。ですから、内部からは生まれてきませんよ。と、お話しさせていただいたのですが・・・。また、外から誰かを入れるということにも躊躇される現実があって・・・
高橋:それは日本の課題の一つだと思います。1950年代、60年代、70年代と、革新的な技術力や事業アイデアを持った日本企業が次から次に出現してきて短期間で世界市場を席巻した事実があります。だから、今は、出来ないわけでなく、単純にやっていないだけではないかと思いますね。日本企業の多くが過去の成功体験に依存してしまい、「ゆでガエル現象」になってしまっているように思います。そういった意味で、小幡さんのやられているビジネスプロデュース力を持っている方を育成するということは非常に重要だと思います。全ては人ですのでリスクを取って新しい動きを起こせる人材を少しでも増やす事が最も重要な課題だと考えます。
弊社の基本理念に「オープンイノベーションを通じて次世代の国富を担う産業を創出する」とあります。大企業とベンチャーだってそうだし、異業種だってそうだし、クロスボーダーだってそうだし、ようは自分が所属する領域から出て、今までなかった組み合わせで、知識を組み合わせることで、これまで出てこなかったナレッジやアイデアが生まれ、新たな付加価値を創出することが可能になるということを提唱しているのですね。
日本に足りないものは、小幡さんがおっしゃるようにオープンイノベーションをプロデュースする人材だと。大企業同志でも、過去には、同じ業種で話をすることさえなかったわけで、ある事業を一緒にしてみたら今までと違うものが生まれるかも・・・という単純ですが新しい発想を生み出すチャンスにもなると思っています。
小幡:新しい発想ということで、大企業のプライドや自社のカルチャーをもっていらっしゃる方々が、自分達が・・・ではなく、若いまっさらな人たちに、技術だけを教えて、若い人たちのアイデアで創り上げていくというようなことは可能でしょうか?
高橋:事業によると思います。若い人ならではの発想が活かせる分野もあると思います。ただ、アイデア力で勝負できる世界と、ほんとうに技術力で勝負できる世界は別だと思います。
小幡:これからの成長業界ってどうなのでしょう?
高橋:国内だけで議論しても意味がないのではないかと思っています。アジア全体で見たら、日本企業がこれからも成長していける領域・市場はたくさんありますし、B to Bでも、B to Cでも、成長の要素は十分に期待できると思います。
小幡:つい最近まで、IT企業の上場ブームがあり、上場ゴールと呼ばれるような上場時の株価が一番高くて、後は右肩下がりのような企業がありますが、IT業界に関しては、どのような観方をされていらっしゃいますか?
高橋:ITもいろいろなので一概には言えませんが、日本的だなと感じるのは、日本の中で完結してしまっているということですね。ドミナントプレイヤーになって、市場シェアを取り、IPOをされても、国内にとどまっていて、世界市場に出ていかないのはなぜだろうと。競争力があるなら、世界で勝負をしてはどうかと思いますね。個人的には、韓国・中国企業がアジア中に展開する事業を創り出しているのに、絶対に日本人が出来ないはずがない!世界で勝負できるはずだ!と思っています。
グローバル化する社会情勢の中で日本企業のこれからとは
小幡:世界になかなか出られない理由はなんだと思われますか?
高橋:単純に言語であり、文化であり・・・最大の原因は日本以外で「やったことがない」という経験値に尽きると思います。母国市場と異質な市場に対する戦略とか事業展開について本格的に実施した事がないということでしょう。ヨーロッパは、隣の国が言語も文化も違うという環境で、自国のことだけを考えていればいいというわけにもいきませんから、必然的に考えるわけですよね。日本は、自国が市場として大きいし、国内のことだけを考えていれば、ある程度やっていけるという恵まれた環境でもあるので、そこに甘んじている部分もあるのでしょうね。
小幡:とはいえ、日本は鎖国できるわけでもありませんし、市場も飽和状態と言われていますが・・・
高橋:私は、さほど悲観していません。市場によると思いますし、人口問題もマスコミの報道で問題のように思われていますが、50年で終わるのかといえば、そんなことはないですよね。怖れることはないと思います。安定的な成長をしている業界もあります。ただ、大きな成長はありません。やはり、分かりやすい成長とすれば、アジアなどに進出するべきでしょう。
小幡:日本でグローバルな視点をもっている会社は少ないのでしょうか?
高橋:いやいや、たくさんあります。世界のトヨタだけでなく、メーカーでも世界中から評価され、愛されている会社はたくさんあります。ただ、一部の限られた会社が長年そこにいて、メンバーが変わらないという現実はあります。世界で戦略的にビジネスをするには、明確な問題意識をもっている人がトップにいるかということに尽きると思います。世界市場に関するトップの問題意識がないと続かないし、結果が出せないですよね。もちろん、結果の出ている企業はいいのですが、そうではない裾野の企業を増やしていかないといけないと思います。
小幡:世界を見る知るためには、何が大事でしょう。
高橋:日本人が世界に出る時、コミュニケーション能力・・・それは、言語のみではなく、自分の意見を正しく持ち、それらの意見を明確に伝えて、相手とフェアに議論をする能力だと思います。私が、海外勢とやり取りをする時には、議論はビジネス上、必要不可欠なプロセスだと思っていますし、そのプロセスから自分も学び、楽しいとも感じています。
小幡:個人として成長したなあと思うことはありますか?
高橋:「For JAPAN」という観点で仕事をすることって、なかなかないですよね。通常投資会社の世界は、安く買って高く売れ!というのが当たり前で、それはそれで大事ですが、日本という観点で、日本の産業がどうなっていて、主力企業のグローバル戦略等を真剣に考えて、日本という国のために働けるということは、非常に貴重な経験をさせていただいていると思います。個人的なテーマは「日本とアジア」なので、アジア全体の成長を考えて日本の企業にオープンイノベーションを起こしていきたいと思っています。
小幡:本日は、大変に貴重なお話をありがとうございました。
《インタビューを終えて》
高橋氏のお話は、非常に熱く、それでいてとても冷静で、そのバランスのよい温度が、投資先の企業の成長に大きく貢献されていらっしゃるように感じました。高橋氏のお話の中に出て来た、投資という言葉は、単純に商売の基本である「安く買って高く売る」ではなく、日本という国のために、「どんなビジネスを創造することができるか」ということに言い尽くされていたことに、ビジネスプロデューサーが「共創」という言葉を使う意味と重なりました。インタビューの中で、「小幡さんのおっしゃるように」という言葉を何度も出していただいたのですが、それが、産業革新機構の基本理念「オープンイノベーション」と重なる言葉であり、日本国とBPAの不思議な接点を感じました。それは、「For JAPAN」と高橋氏の口から何度もこぼれる言葉のように、より高次の観点から世界を見る(知る)ことの課題(問題意識)と、企業のプライドや文化をものともしない、日本人としての真の誇りを表した言葉であるように思えました。
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海外進出を考えた時、「言語の壁」は非常に大きいと感じます。その解決策として、有能な通訳者をパートナーにすることが求められますが「言語を超えたコミュニケーション」もあるかと思います。白紙のノートに描く力があれば、ちょっとした英単語だけで適切なコミュニケーションを図ることが可能だと思います。ビジネスプロデューサーは、そういった技術(表現手法)に磨きをかけ、信頼を得ることができる存在であるべきだ、と思います。もちろん、ビジネス英語くらいは勉強すべきと思いますが・・・