海外企業によるM&A の増加とM&Aにおける日本のグローバル化戦略
海外企業によるM&Aの増加
企業買収の仲介の専門会社、レコフが2016年1月~6月の上半期に、海外企業が日本の企業を対象に行ったM&Aのデータは、前年同期より10件多い107件で、金額は3.5倍の1兆7350億円に上ったという調査結果が発表された。
BPA JAPANでお伝えした「For JAPAN-日本という観点をもって企業の成長を後押しする」にてご紹介の産業革新機構と争った、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業による大手電機メーカーのシャープ買収や、東芝の白物家電事業、東芝ライフスタイルを中国の大手電機メーカー美的集団の子会社(ミデアグループ)が買収したほか、ソフトバンクグループが傘下のゲーム会社(スーパーセル)を中国のインターネット大手テンセントに売却するといった大型の案件が相次いだことが、この数字の結果といえる。
日本の企業が海外の企業を対象に行ったM&Aは流通やサービス業の分野でアジアへの進出が活発だったことなどから306件と、去年の同じ時期より18%の増加、金額は1兆9284億円と66%減少。
中国や台湾の企業が日本企業を合併・買収(M&A)するのは、業績が悪化したとはいえ、日本の技術力とブランド力による利益を感じているからであろう。
また、日本企業間のまで含M&Aめて日本企業対象のM&Aは3兆8081億円と、前年同期比77%の増加で、グローバル金融危機前の2007年以来9年ぶりの最大規模となった。
BPA(ビジネスプロデューサー協会)では、事業を創造し売却する出口(EXIT)をビジネスプロデュースのひとつのゴールと考える。
日本企業は1985年のプラザ合意で円高が急激に進んだバブル期に、米国の象徴と呼ばれるエンパイアステートビルやロックフェラーセンター、コロンビア映画などを買収し、世界M&A市場の「大手」に浮上した。
30年が過ぎ、新興国と呼ばれる国々が、当時の日本同様の力をつけ、過去をなぞっているともいえる。
1年前の2015年6月、住宅や商業用ビルの建材や水回り設備、さらにはホームセンターや住宅関連のフランチャイズなどを幅広く展開するLIXIL(傘下のブランド・子会社には、INAX、トステム、新日軽、サンウエーブなどがある)は、海外M&Aによって、グループ企業となった中国の水栓金具メーカー中宇(ジョウユウ)の破産手続きで大きな損失を被った。
LIXILは、当時、米GE経営にも携わった藤森義明氏を招き入れ、グローバル化を推し進めてきた。M&A担当に金融機関出身者を置き、日本型経営からの脱却・次世代経営リーダーの育成に力を入れ、M&Aによって事業規模の拡大を推進し、経営計画では、売上高目標3兆円のうち1兆円を海外で稼ぐと明記し、グローエ、ペルマスティリーザやアメリカン・スタンダードなど海外企業の買収戦略を積極的に進めた。
ジョウユウ破綻の背景には、不正な経理処理、買収前から巨額の簿外債務を抱えていた点がある。ジョウユウの創業者一族は、日本人性善説で済ますには、その想像を超えるしたたかさだった。多額の簿外の債務を正会計処理を行うことで経営の実態を取り繕っていたのだ。
「まんまと『ゴミ会社』を『優良企業』に見せかけたコンサルの罠に引っ掛かった」
「海外企業の買収でババを引かされた」と揶揄する者もいる。
M&A・企業買収などによって新規の事業や地域に進出する場合、取得する企業に対するガバナンス=企業統治に関して大きなリスクが伴う。
BPA LIVE Vol.51にて、M&Aに長い経験をもつK氏の講演にあったように、M&Aを実施するに欠かしてはならないデューデリジェンス(相手企業の財務内容を問題がないか専門家が詳細に調査すること)を厳密に行うことで、リスクの一部を軽減することができる。
さらに、企業経営者のガバナンスの実態を握らねばならない。中国の創業経営者の中には、企業と自分の個人の勘定の区別がつかない人も多く、財務が創業者一族に任せている場合、多額の簿外債務が、ある日突然、表面化することもあり得るという。海外企業とのM&Aにおいては、欧米諸国などの先進国でも「日本の常識は世界の非常識」であり、特に性善説で動くといわれる日本のビジネス慣習は通用しない。
LIXILにM&Aをもちかけたグローエ株保有の米投資会社は創業者一族とグローエを第三者に売却する場合は必ず同意を得るという協定を結んでいた。そのため、ジョウユウという「毒饅頭」を喰わされたと読むものもいる。
ジョウユウの本拠地・福建省という地域は、地縁など土着性が極めて強く、企業と個人、自社と関連会社、政府と企業などの区別がつかず、帳簿の改ざん等は日常茶飯事で、資金調達については、相互に債務保証し互助するのが一般的であるという。先進国のもつ財務感覚と大きな隔たりがあり地縁社会の企業相互扶助が著しい。
しかし、日本でもかつて同様であったことを忘れてはならないだろう。
そして、シャープが台湾のホンハイにM&Aの際、シャープの抱える3000億円規模の偶発債務の存在を知り、最終合意を先延ばしし、出資条件見直しを要請。最終的に出資額は約1000億円減り3888億円となったことも、ホンハイが海外企業とのM&Aを行う上で当然の常識であったといえよう。
海外企業を買収するM&A > 海外企業から買収されるM&A
海外企業を買収するM&A < 海外企業から買収されるM&A
と今後、不等式の向きが変わることも十分に予測される。
日本も、M&Aを上手く利用するために、企業や事業の無味乾燥な売買ではなく、事業承継目的、事業整理目的、事業再生目的、ベンチャー企業のイグジット(投資資金の回収)目的等、企業の成長戦略として最適なM&Aを行うことのできるプラットフォームや専門知識、冷静で客観的な視点が必要となってくる。
6月21日に東証マザーズ上場を果たした株式会社ストライク(代表取締役 荒井邦彦氏)では、インターネットを利用した「M&A市場SMARTTM(Strike M&A Rapid Trading system)」で、譲渡や買収情報をインターネット上に掲載し、相手先企業を探索するサービスを、1999年より日本で初めて開始した。
ビジネスの三大要素といわれる「人・モノ・金」に加え、時間を効率的に使い、「人・モノ・金」を、最適なM&Aに費やすシステムを、非常に早い時期から導入していた手腕はビジネスプロデューサーの視点と同じくする。
奇しくも、6月9日に行われたBPA LIVE Vol.51において、ストライク社の荒井社長を知るK氏より、事業を売り買いするだけの商品としてのみの視点ではないストライク社の功績をご紹介いただいた。
LIXILのグローエM&Aにジョウユウという泥饅頭で儲けた存在があるのかは不明であるが、儲けるためだけに存在する仲介業者であるのか、真に事業成長や事業変革のためのM&Aを望む仲介業者であるのか、M&Aにおいては、それらの目利きと、M&Aのリスクマネジメントに必要な意識と行動と専門家との出会いが可能になる自分となれるような学びを得ていかねばならないだろう。
日本製品も日本企業も「爆買い」されていると呼ばれる現象は、かつての日本の姿でもある。
限りある時間ではあるが、日本が誤った点を潔く認め、諸外国の利益にもなるために、正当なM&Aの情報提供・および管理が可能になることで、世界のビジネスパートナーとしての日本の存在は重要になってくるのではないかと思う。
(PHOTO:株式会社ストライクHPより)
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7月14日(火)、2人の個の力が集まり、小さな事業のスタートをプロジェクトリリースするプレゼンテーションが、ビジネスプロデューサーの切磋琢磨するリアルの場「BPA LIVE」にて開催される。
マクロビオティックを核に、コンセプトをもった民泊ビジネスのスタートである。
彼らは、共に船出する船に乗船する協力者を探している。真のM&Aも、同じスピリットであろう。
マクロビオティックの良さを多くの方に伝えていきたいという意思をもつ方。
ホテルや旅館のように組織・機械化された宿泊にない日本のおもてなしの時間と空間を提供したい方。
空いている空間を有効活用させ、かつ人が願う健康のキーワードも大切にしたい方。
ちいさなM&Aを体験してみてはいかがだろう。