補聴器もクラウドファンディングで「Nanopulug」
◇見えない補聴器がキャッチコピーの「Nanopulug」
クラウドファンディングサイトINDIEGOGOでは、様々なサービス、モノに対し出資者を募っています。
クラウドファンディングに出展する最大のメリットは、出資者が集まるということは、作る前から需要があるマーケットであるということが判断できることでしょう。
Nanoplugは、7.1×5.7×4.17ミリの立方体の超小型補聴器です。なんとコーヒー豆よりも小さく、耳あな型の補聴器で、先端に耳せんをつけるタイプです。
バッテリーも極小ですが、1回の充電で139時間、おおよそ6日間使用できるといわれています。
目標額の8万ドルを早々に達成し、約29万ドルを集めてキャンペーンを終了しました。
◇「Nanopulug」概要
・ノンリニア方式
・チャンネルは8チャンネル
・ハウリングキャンセラー付
・ノイズキャンセラー(ノイズリダクション)付
・充電式(139時間・約6日間使用できる)
・プログラムは4つ
・調整は自分でする
・オートフィットあり
・対象者 中等度難聴くらい(平均聴力60dBくらいまでの人)
キャンペーン中は最安で249ドルから購入できました。製品化された場合の予定価格は399ドルです。発送は2015年の3月を予定しているそうです。
現在の日本の補聴器の価格では、破格値といえそうです。
オートフィットとは、聴力データを入れるとその聴力に合わせて自動的に音量調整してくれる機能で、現在、どの補聴器調整ソフトにも導入されています。
フィッティングについて何も知らない人でも調整できるようになっています。(細部(微調整)には、熟練者と初心者で差があります)
◇聴覚障害者の方が望むことは?
筆者の個人的体験からですが、聴覚障害をおもちの方に取材をさせていただいた時、補聴器は、いらない音まで拾ってしまうので、ストレスになり、装着するのが辛いといわれたことがありました。
ビジネスプロデューサーの方には、製品を生み出す人のことはもちろん、エンドユーザーの声を届けていくことが非常に大事であるように思います。
自身が難聴者であり、さらに補聴器業界で6年仕事をされていた方が、難聴者として、補聴器業界の課題について、下記のようにお話されています。
◇Nanopulugについて
この機器は、自分で補聴器を調整する事が条件となっており、パソコンに補聴器を繋げ、音量の調整を行います。
難聴、聴覚障害は、個々に違いがあり、同じもので同じ結果を出せるものではないので、自分自身で調整できる事は、他人が自分の耳に合わせるより、自分自身が合わせた方が自分にとって最適な音量を選ぶことができます。
自分自身が調整するデメリットもありますが、注意点として伝えることで、調整方法を自分で考えて、自分に合った調整が可能です。
INDIEGOGOに掲載のソフト利用時の画像では、インターフェースが業者でないと理解し難いものに見受けられ(出荷までに、改善されているかもしれませんが)、ユーザー自身で調整してもらうためには、素人が一目でわかるソフトを用意しないと、いくら小型化されても、使うことができないのではないか?という疑問も浮かびます。
デザインとして美しい、小さくて気にならない商品、の先に、機能としてどうなのか、ユーザーにどう使ってもらいたいのか、という観点を忘れないでもらいたいと思います。
さらに、低価格の理由に、性能面としての不安をあげられました。
搭載されているノイズキャンセラー(ノイズリダクション)、ハウリングキャンセラーの程度が不明であること。
さらに、139時間バッテリーが、なぜそんなに使用できるのかが不明です。
2010年頃、GNリサウンド社から、当時画期的といわれた補聴器の充電式バッテリーが出ました。
しかし、補聴器の消費電力の大きさ、充電池の欠点により、市場から姿を消しました。
当時の充電池は、一日置きの充電で、使用時間が問題視されるスマートフォンは、近年、使用時間は伸びましたが、実は、電池が良くなったのではなく、ディバイス(ディスプレイ)を大きくして、充電池の体積を拡大する事で、使用時間を伸ばしています。
補聴器は、常に周囲の音を聞き取り、どのような状況なのか、この音は何なのか、この音は下げるべきか、など様々な演算をしています。
これらの機能が抑えられれば、確かに使用する電力は減ると考えられます。
充電池の容積が小さくなっているのに、なぜそんなに使用できるのか、ユーザーへの説明が必要かもしれません。
◇聴覚障害者の方が社会参加できるために、ビジネスプロデューサーが考えること
再び、筆者の個人的体験ですが、小学6年生の時に、友人である女の子から「私、右耳が聞こえないので、左側から話してもらえる?」と言われたことがありました。
補聴器もつけておらず、彼女の耳のことは、全く知らなかったので、「ほかに、何か気をつけた方がいいことある?」と聞きました。
「こっちの(左)耳は聞こえるから、こっちから話してくれれば大丈夫」と言われました。
現在、クラウドファンディングや、その他の聴覚障害を改善させるプロジェクトとして、電話音声テキスト化アプリや、グループ会話音声テキスト化アプリや、手話と音声の通訳などが進行しています。
補聴器が完全なものなら、こうしたプロジェクトは不必要です。
補聴器を売るだけでは、聴覚障害を抱える方の生活は向上しません。
健常者でも、日々体調が変わるのと同様、耳の聞こえは、状況により、聞きやすかったり、聞きにくかったりと非常にムラがあります。
ビジネスプロデューサーは、ものを売ることだけを考えてビジネスを作り出すのではありません。
補聴器があることで、ユーザーができる事、できない事を知り、他のもので補えるものの知識も求められます。
ビジネスプロデューサーは、聞こえない、聞き取りにくい聴覚を持つ人たちも含めた社会で、皆が共にやさしい社会となるために、どのような支援ができるかを考えながらビジネスを作り上げています。
アプリ開発プロジェクト参加者たちは、補聴器だけではできないことを、アプリで支援していく事を考えました。
聴覚障害をもつ方がたが、少しでもこの世の中で生きやすくなるために、少しでも会話の理解ができるように・・・と。
コミュニケーションが図られることで、多くの人との意思疎通が可能になります。
聴覚障害を持つ方たちが、周囲に難聴である事、どんな協力をしてもらいたいのかを伝えることのできる環境づくりこそが、ビジネスプロデューサーの存在価値となるのでしょう。
耳の聞こえない人に(耳の聞こえない人と思われないままに)聞こえるように・・・という方法よりも、耳が聞こえなくても、周囲の声が聞こえて意志疎通のできる社会を・・・というイノベーションこそが、ビジネスプロデューサーの醍醐味ともいえるでしょう。