画期的膵臓癌検査方法を発見した15歳の少年
アメリカのメリーランド州に住む15歳の高校2年生ジャック・アンドレイカ(Jack Andraka)が膵臓、卵巣、肺癌の早期発見につながる検査方法を開発した。5分程度の尿と血液検査で3セント(日本円で約3円)、90%の精度で膵臓がんを検知できるという。
彼は13歳の時に、叔父さんや友人を相次いで膵臓癌で亡くした。そして、ネットにアクセスして、「Wikipedia」というオープンな百科事典と、「Public Library of Science」というオープンな学術ジャーナルの2つから膵臓癌の情報を得、原因を検出した。
しかも、今ある検査は800ドルもかかり、検査をしても30%以上を見落としてしまうという事実を知った。
米国癌学会の発表では、膵臓がんの生存率は極めて低く、患者の94%は、診断の5年以内に死亡し、74%が1年以内に死亡している。
なぜ難しいのか。膵臓のある位置が胃の裏であり映像に写し出されにくいということがある。また膵臓癌を検出するためには、血中にあるごく少量のタンパク質の発生量を調べなければならない。彼は、8000種の中から、膵臓癌患者特有のものを見つけ出した。
新膵臓癌検出紙検出紙状センサーと名づけたくなるような様式で、糖尿病の検査紙に厚いカーボンで作った小さいチューブで覆い、カーボンナノチューブに逃げることのできない抗体が、タンパク質をつかみ、そのカーボン紙の電気抵抗の減少度合からガンの存在を確認したという。
どうやって、その研究を行ったのか?
彼は約200の大学の研究室にいる教授に手紙を送った。199の教授は提案を却下。たった1通、良い返事が帰ってきたのがジョンズ・ホプキンス大学だった。最後に彼の指導者となったAnirban Maitra博士の病理学の教授の研究室でテストを行った。
彼は、世界中の高校生が集まり、研究成果を競うインテル国際科学技術フェアで最優秀賞に輝き、約600万円(75000ドル)の賞金を手にした。1500以上の研究者と競いあった。その他、国内外で多数の賞をもらい、彼は会社を設立し、国内外の特許を申請している。
日本では特に、医療業界とはいえどもビジネスとして「お金が儲かるもの」を開発することが目的となる。
残念なことに、必ずしも社会的に重要なものを開発することが、お金儲けにつながるわけではなく、安価な薬や検査方法などの開発には着手しないという現状がある。
ジャック・アンドレイカは、自分のファミリーを失ったことで、膵臓癌の苦しみと発見が遅れ、しかも生存率の低さに対して憤り、「もっと安く簡単にしかも精密な検査方法がないだろうか」という発想から、そこに時間も熱意も集中して取り組むことができた。しかも、医療業界では研究に巨額な費用をかけなければできないといわれているにも関わらず、低コストで開発ができたのだ。
儲かる医療研究開発ではなく、世の中の役に立つ医療研究開発を、15歳の学生が行う!
こんなすごいコンセプトを、誰が発想できたであろう。
お金をかけずに研究ができる、時間を気にせず発明に没頭できるというのは、若き起業家にとっても、同じように成功への道につながる。
科学技術、製薬業界、医療分野では、ベンチャーも、また学生に・・・という考えは、日本では生まれにくかった発想だ。
しかし、ジャック・アンドレイカという15歳の少年の存在によって、医療開発研究分野も、世の中のほんとうに苦しんでいる人々のために、低コストで、苦しくない、役に立つ新しい医療研究開発というコンセプトで生まれる時代になっていくかもしれない。
※ Intel Science Talent Search(ISTS)
年に一度、多くの高校生たちが主体的に科学の研究に取り組み、その独創性を競うイベント。
ISTS をめざす高校生たちは、アメリカの研究室に、「ISTS に出場したいので研究させてください」というメールを出す。
主として、SophomoreやJuniorの学生で、日本の高校1,2年生に相当する。
彼らは、学校の授業終了後、ほぼ毎日、週末も大学の研究室に向かい真剣に研究をする。
ISTS 出場は、大学の願書に書くことができ、入学選考でプラスの評価となり、予選を通過して最終審査に残るFinalist になれば大学入学のための奨学金額が増え、トップクラスの大学入学に有利になる。こうしたことも、彼らのモチベーションを上げている。
※ ジャック・アンドレイカ
1997年、米メリーランド州生まれ。父は土木技師、母は麻酔科医。幼い頃から科学に興味を持ち、小学生の頃からサイエンス・フェアに参加。2012年、インテル国際科学技術フェアで、膵臓癌の新たな検査法を発表し、最優秀賞に輝く。ABC、CBS、BBC等テレビや新聞・雑誌の取材が相次ぐ。13年、15歳にしてTEDの舞台に立つ。