トマトで勝負をしなかったカゴメ-東南アジア進出
カゴメといえば、真っ先に思い浮かぶのが、トマトケチャップ、トマトジュースではないだろうか。
2013年10月に、カゴメ ニュースリリースには、「東南アジアにおいて初めての導入となる新商品「Tomato Essence(以下、トマト・エッセンス)」45mlを、2013年9月に発売し、10月9日(水)タイ・バンコクにて新商品発表会を行いました。」とある。
タイの濃縮健康飲料市場は180億バーツ規模。タイは人口が多く、親日的。東南アジアの中でも健康を気にする消費者が多い。タイから東南アジア展開を見込んでのカゴメの東南アジア進出だった。
当初、タイ現地法人オソスパ・カゴメは、濃縮トマト飲料「トマト・エッセンス」を発表した。タイ人になじみの薄いトマト飲料をエッセンスとして、濃縮健康飲料市場に売り込もうとしたのだ
ターゲットは、健康意識が高い30~45歳の女性。抗酸化作用のあるリコピン30ミリグラムを含む45ミリリットルの瓶入りで、販売を開始した。セブンイレブンなどコンビニエンスストアで、価格は1個45バーツ、4個入りパックが175バーツ。
タイ在住の日本人からは、「ボトルもタイの健康ドリンク類と同じ型で、デザインも形もかわいらしくて良い。」「サプリメント系ドリンクとしても、奇麗なハコに入っていて、ビンもしっかりしてて、ちょっと高級感を感じる。」と、タイの市場のベンチマークも万全で、良い評価を得ていた。
しかし、タイでは、トマトのイメージが悪く、「臭い野菜」といわれていたのだ。
というのも、現地で売られているトマトの品質が悪く、そのまま食べるイメージがなかったのだ。
日本でも、メロンは高級というイメージがあるが、中には青臭いと嫌がる人もいる。
しかも、海外では「KAGOME」は、全くの無名のブランド。
商品が良ければ売れるという簡単なことではなかった。
カゴメがしたのは、現地の家庭を複数の人数で一軒一軒まわり、現地の生活を日々記録してもらい、切り口を考えた。そこで見えてきたのが、美白と健康だった。
女性ばかりでなく男性も肌が汚いと、ビジネスでも認められないと感じていたのだ。
そこで、トマトに含まれる美容成分「リコピン」に注目し、リコピンの健康・美肌効果を打ち出し、「トマトそのもの」ではなく、「トマトの中のリコピン」の「美容健康市場」を創造し、開拓を試みたのだった。
次の課題は、リコピンの健康効果の訴求だった。日本国内でも、薬事法が厳しく、宣伝に効能効果を載せることが難しいように、「カゴメ製品は健康・肌に良い」という直接的な宣伝は、現地の薬事法で禁止されていた。
そこで、カゴメの名前はまったく出さずに、「リコピンが健康に良い」というTVCMを作り宣伝した後、「リコピンは健康に良くて、そのリコピンは、カゴメ製品に入っている」というCMで打って出た。
商品名も「カゴメリコピン」。
カゴメ=トマトではなく、カゴメ=リコピン(美容健康)というブランド価値を創り上げた。
カゴメの現地拠点はわずか数名の体制で、タイ全土のセブン-イレブンに並べるという快挙を成し遂げた。
コンビニでの棚を確保し、認知度を上げた後、サプリメントから清涼飲料水へ展開を始めた。
とはいえ、美容健康に敏感な人は、味にもパッケージにも、あらゆる面で五月蠅い存在でもあり、その声が、さらなる商品の改善にもつながる。
「たまにダイエットとかすると、野菜の栄養を取らねば!と思ってこれを飲みますが、タイでは、リコピンがカゴメの強みと言っても、あのドリンクのトマト感・・・どうにかならないかと思っていました。」
そんな声に応えたのか、味もおいしいリコピンドリンクへと進化し、入れ物もドリンク用のもので発売した。
コンビニエンスストアで20バーツ。その値段は、ドリンクのお茶と同じ位の値段設定だ。
タイにいる日本人消費者の声も、「ちょっと甘みが強いけれど、それがタイ人の好みだとわかる。普通より甘みを抑えて作っている印象で、ヘルシー志向のタイ人にうけると思う」と、好意的だ。
CMも、タイらしく、少し色っぽく美男美女が「ちゃんと見ててね、目をしっかり開いて私を見て」というナレーションも入り、健康よりビューティー重視のコンセプトが伝わる。
ビジネスプロデューサーは知っている。
新価値創造とは、新市場をどのように作っていくのかということと、密接に関わり合っているということを。
顧客を学習させ、その市場に価値を感じてもらうことに、努力を惜しんではいけないということを。
本当の声は、なかなか外には出てこない。
だから、中に入り込み、その声を掬い出すことから、マーケティングが始まるのだということを。
自分の考える価値を、一度、クリアにして、市場の声を聴くことが、新市場を創造することにつながる。
いかに、そこに「新しい価値」を訴求させ顧客に届ける「仕組み」を構築していくか。
ビジネスプロデューサーは、常に、紙の上に自分の手や指を動かして、仕組みを描き続けている。
PHOTO:CLUB MANAGEMNET