浪人生文化を作った代々木ゼミナールの決断
大手予備校の代々木ゼミナール(学校法人・高宮学園 / 本部・東京都渋谷区)が、17都道府県で展開する29の校舎のうち7割にあたる約20校舎を来春にも閉鎖する方針を固めた。さらに、「センター試験プレテスト」や「国公立2次・私大全国総合模試」などの全国模擬試験を来年度から廃止し、2013年度、全国で約42万人が参加した大学入試センター試験の自己採点結果集計・分析も実施しないという。「東大入試プレ」など個別大学志願者向け模試は、存続の方向で検討している。
代ゼミ広報企画室によると、全国28校のうち、来年3月末で閉鎖するのは、仙台、大宮、横浜、京都、神戸、小倉、熊本など20校。
本部校、札幌、新潟、名古屋、大阪南、福岡の各校、造形学校(東京)の計7校に集約するという。
閉鎖する校舎では来春以降の生徒を募集しない。
代ゼミは1957年に創立され、2008年には本部がある東京・代々木に26階建ての「代ゼミタワー」を建設。
2009~10年に中学受験などで実績のあるSAPIXの小学部と中学部をグループ化した。
代々木ゼミナールは、駅から近い好立地であり、過去、校舎の有効活用を行っている。
創業者の高宮行男氏は、
「予備校が儲からなくなれば、さっさと転業して結婚式場でもホテルでもはじめる」
と発言したとも言われており、この代々木ゼミナール縮小については、すでに10年前から想定していたという声もある。
札幌校 狭い新校舎に移転、旧校舎は貸会議室に
津田沼校 今月、校舎跡地にマンション完成予定
本部校 校舎跡地は、商業施設と貸会議室に
原宿校 校舎跡地が、コインパーキングに
浜松校 規模縮小で、デパートの9階に移転
名古屋校 本館を取り壊し、23階建てのホテルに改築中
サテライン棟(JECビル)は飲食店が入る雑居ビルに
京都校 校舎の半分がホテルカンラ京都に、学生寮はホテルアンテルーム京都に改装
福岡校 旧学生寮跡地にJRのマンションが建った
高宮行男氏は、第二次世界大戦後、東京でキャバレーや質屋やパチンコ屋チェーンを経営していた、増田商事の社長・増田亀吉の娘婿となり、それらの店の運営に携わり、亀吉が興した予備校「不二学院」の経営権を乗っ取り、その隣りに合った予備校「代々木学院」も吸収して 「代々木ゼミナール」を設立。
60年代から80年代にかけての予備校全盛時代に、ダミー会社「三鳩社」を利用した税金対策や、ダミー法人「学校法人東朋学園」を利用した強行開校など法的規制を掻い潜った強引な手法を用いて拡大。一時代を築いた。2009年6月30日、心不全のため東京都千代田区の病院で死去。92歳だった。
高宮学園元副理事長、元日本入試センター社長の竹村保昭は実弟。
高宮氏は、戦後、予備校というビジネスを創り上げた立役者でもあり、浪人生文化ともいえる、明治のモラトリアムとも異なる、浪人生独特の世代を生み出したともいえる。
大学入試センター試験の自己採点結果集計・分析事業も、実弟に竹村氏がいたという点が大きかっただろう。
しかし、現在、大学は全入時代といわれ、推薦入試で有名大学に行けるようになり、予備校で勉強するよりも 楽しく部活動やりながら、進路担当の先生に 指定校推薦くださいと、試験勉強よりも人脈の方が優先される。
現状は高校が予備校化し、大学が就活セミナーになり、一部の文系や理系以外の大学生は、まともに学校すら行かず、私大の約半数(45.8%)は定員割れの推薦枠ばかりで、無試験でも入学者が集まらないという、そもそも入試すら機能してない状態だ。
昭和にあった浪人生文化が衰退し、おそらく数年後には消滅するであろう。
結局、巨大予備校は「大量のデータの所有者である」ということを除けば、その存在意義を失う。
予備校のビジネスモデル自体が崩壊しつつある中、ネット時代となり学習コンテンツが無料で手に入るようになり、講師も動画をネット上に置くだけでいい。より学びやすくなっている一方、既得権益にとっては、このまま突き進むか、別の事業体へと方向転換するのか、経営者としてのかじ取りが迫られた中、代々木ゼミナールの決断は、次なるステージへの英断といえまいか。
ビジネスプロデューサーは、代ゼミが無くなったからと、そのシェアを奪えるはずだと喜ぶ予備校が存在するとは思ってはいないだろう。
教育ビジネスが崩壊に向かっている現在、教育ビジネスに変革を起こす本物のビジネスプロデューサーの存在は、将来の国創りのためにも必要とされている。
本社所在地 東京都渋谷区代々木1-29-1
設立 1957年
代表者 理事長 高宮英郎
従業員 687名(2011年6月現在)常用雇用数1,149名
事業内容 教育学習支援
○高校生・高卒生への受験支援
○高校・大学・塾・予備校への教育事業支援など
(画像:TAISEI DESIGN )