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日本映画を世界にプレゼンした男 日活プロデューサー千葉善紀氏

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BPA NEWSにてご紹介したように、今、アジア圏で最も熱い注目を集めている映画大国のひとつがインドネシアだ。
2月1日、日本とインドネシア初の合作映画『KILLERS キラーズ』が公開された。

監督は、ティモ・ジャヤントとキモ・スタンボエルの親友2人組からなるモー・ブラザーズ監督。
ブラザーズといっても、二人は兄弟ではない。ティモ・ジャヤント(33)とキモ・スタンボエル(33)の両監督はオーストラリアの映画学校で出会った友人同士で、名前の順番で争うことのないようにと、ティモとキモに共通する「モー」ブラザーズと名乗る。

主演の北村一輝氏は、脚本を読んで、野村という役にまったく共感ができなかった。
それを、モー・ブラザーズ監督にぶつけた。

「僕たちは、アジア人として、これだけのクオリティがあるんだと見せられる映画を作りたい!」
「そのためには、このジャンルが一番勝負しやすいジャンルなんだ」
「ホラーやスリラー映画は、日本ではコアな部分に思われがちだが、他の国ではど真ん中のジャンルだったりする」

これを聴いた北村氏は、世界の目でエンタテイメント映画を作る監督の言葉に、やるしかない!と思ったのだった。

北村氏自身も19歳で家出をし、売れないエキストラ時代を経て、手に入れたゲイのママさん役作りのために、新宿2丁目に何日も立ち、声をかけてきた社長さんに頼んでゲイの店に連れていってもらったというエピソードやチンピラ役の役作りのために、歯を抜いたりしたという普通とは違う俳優だ。

「僕も、教科書に乗っ取って生きているわけではないので、日本を基準に物事をはかるのではなく、そういう考え方があっても面白い」と、北村氏は役を引き受けた。

  彼らの目は、世界に向いている!

「日本では、この映画はR-18+指定で、インドネシアでも指定を受けるかもしれない。
でも監督は、『もしインドネシアで公開されなくても、アメリカや他の国でも、どこでも見てもらえる』という考えの持ち主。」

「僕たちはどうしても、日本中心に考えてしまうけれど、彼ら英語圏の人の強みというのは、世界に目が向いていること。そこが、僕に足りないところだと思った。」

撮影においては英語の発音を注意され、50テイク(NG50回)、60テイクと、OKが出るまで、何度もやらされ、監督を憎んだこともあったという。

日本映画は俳優が英語を使わない(使えない)。
だから、字幕をつけなければならないが、字幕では世界では見てもらえないところもある。
英語圏の人が字幕なく見られるようにと、分かってもらえる英語をしゃべらなくちゃいけないと。

そして感じたことは、

「日本は今、何かを見ないように蓋をしているようなところがあるんじゃないかな」

「開かずの扉の先は、どちらにしても見たがるもの。昔、僕たちが子どもの頃は、当たり前のようにホラー映画もテレビで見られたでしょう?良いとされる映画だけを見るのではなく、いろいろなジャンルの映画を見ることも必要だと思う。自分で判断したり、チョイスしたりできる人間を育てるには、映画はとても良い材料だと思っていて。僕としては、もっと自由でも良いのかなと思っています」

この映画のプロデューサーは、日活株式会社プロデューサー千葉善紀氏。
かつて、Vシネマを作っていた千葉氏が、日活で『SUSHI TYPHOON』という海外向けレーベルを作ってなければ、この映画が生まれることもなかった。

『極道戦国志 不動』(三池崇史監督)、『エコエコアザラク』(95/佐藤嗣麻子監督)、『Zero WOMAN  警視庁0課の女』 (95/榎戸耕史監督)などのVシネマをアメリカに持ち込み、Vシネマがアメリカで売れるきっかけを作ったのだ。
『不動』は、世界各地の映画祭に出品され高い評価を得て、「メディアブラスターズ」というアメリカのビデオ会社が権利を買いたいということで、他の作品も買ってもらう「セル・ビデオ」という形態で、20本のシネマの権利を販売し、『Zero WOMAN 』はケーブルテレビで何度も放映された。

日本のVシネマ全盛期は、お色気もの、アクションもの、ヤクザもの、といったいろんなジャンルのものが作られ、面白い映画が海外に輸出された。しかし、その時期をピークにVシネマ業界は衰退し、制作がされなくなり、売れる土壌があったにも関わらず、稼ぐチャンスを逃した。

「メディアブラスターズ」の方から「お金を出すので新作を製作して欲しい」と言うオファーがきて、日活で『SUSHI TYPHOON』という海外向けレーベルを作ったのだった。

2005年、「メディアブラスターズ」と共同製作した『デス・トランス』という作品。そのきっかけは、2000年に、坂口拓氏と下村勇二氏が関わった『VERSUS ヴァーサス』が海外で評価を受け、彼らを使って作品を作ったら売れるんじゃないかという思惑で、3分程度のプロモを作り、マーケットに持っていった。なんと、本編の権利が世界中に売れた。

それまで、日本の映画プロデューサーたちが、海外のセールス会社が作ったプロモだけ見せられて本編を買わされる立場だったのが、逆の立場になった下剋上の瞬間だった。

北米で「メディアブラスターズ」が販売したDVDが売れに売れて、もっと日本のコンテンツが欲しいという話が、千葉氏のところに持ち込まれた。
しかし、作れと言われても、おいそれと作れるものではない。

ただし、ギャランティの高い有名な俳優を使わなくてもいいだろうという目論見はあった。

「外国人・・・特に北米の人から見たら、日本人の誰が出ているなんて分からないさ。」

「血が吹き出るとか、エロとかグロといわれ、日本だったらNO!と言われるような場面も、自由にできる。」

そこで、井口昇監督(AV監督から一般映画監督に転向。劇団大人計画俳優)に、「好きな事をやれる」と、話を持ち掛けた。
井口監督は、今まで「映画を撮ってもいいけど、血は流さないで」、「変な事しないでください」と言われて続け、「今回は首が飛んだりとか、血がドバドバ出たりする映画を作りましょうよ」といっても「ウソそんな事あるはずないじゃないですか」と信じなかった。

  日本にはない自由さ

これこそが映画の原点ではないか!

結果、面白い作品が生まれ、評価されて商業的にも成功したのだった。
日本では、著作権や肖像権を守ることに必死になり、人を楽しませよう、喜ばそう、人を揺さぶる、影響を与えるというエンタテインメントの本質を失くしてしまってはいないだろうか。

エンタテインメントとは、

〔人の〕もてなし、歓待
〔あるものから受ける〕楽しみ、喜び、気晴らし
〔娯楽の分野としての〕エンターテイ(ン)メント、芸能
〔公演される〕エンターテイ(ン)メント、演芸、ショー

とされている。

違法ダウンロードに対する危機感はあるだろう。
これまで、邦画のインターネット配信は一般的ではなかった。
俳優の肖像権の問題、海賊版へ警戒心。日本には、インターネットは危ないという意識があったのだ。

しかし、アメリカ資本の『片腕マシンガール』はライツ(著作物)をどんどん売る。
そのおかげで、邦画で初めてXBOXのラインナップに載った。並みいるハリウッドの超大作を押しのけて4位にまでなったのだ。

その最大の功労者は、You Tube。

予告編映像は100万アクセスを記録。
『不動』は、ファンタスティック系の映画祭に出し、そこから評判を取って…と地道な草の根運動の末に花開くという宣伝方法をやっていたのが、You Tubeの出現で、いきなり全く無名の映画の予告編が、爆発的に観られる機会ができたのだった。

その宣伝効果は凄まじいものがあった。タイミングもよかった。You Tube がなかったら、あの映画があれだけ大きく注目される事はなかったし、セールスもこんなに大きくはなかっただろうと語る。

いくら面白い事をやっても、日本映画というだけで売れる限界はある。ハリウッドに香港や韓国など、他のアジアの国の監督が招かれて作品を撮っているのに比べ、遅れを取っていることが悔しいと、千葉氏は言う。

日本人のアクション監督達は、実は世界中で大作を支えているのだが、外国映画にアイデアを取られているばかりになっている。

「自分たちで映画を撮ればいいのに」

そのためには、ハリウッドや香港のスター達にしか光が当らない、この現状の中で、彼らを違うステージに引き上げていかねばならないと言う。
日本で「あんな馬鹿な映画」といわれるものが、海外の映画祭で、観客がすごく喜んでくれたという経験が、日本映画への自信につながっているという。

逆に、日本人の中では「千葉ちゃんもよくやるよねー」で終っちゃうからと苦笑する。

千葉氏は、過去に、ギャガ株式会社(日本国外からの映画の買い付けや版権の管理を行っている)で洋画の買いつけ、宣伝を行っていた。だからこそ、作品のパッケージというものにこだわっている。

【SUSHI TYPHOON】で最も大切にしているのは、ビジュアルだという。アーティスト高橋ヨシキが作るビジュアル・イメージは、とても美しく、海外でも人気が高い。パッケージも、ポスターも全部ひとつの商品と考え、映画の中身と同じくらい重要視している。

【SUSHI TYPHOON】については、以下のように述べている。

海外では、かつて【SUSHI 】は高級で、手の出ないものだった。もしくは、食わず嫌いの物。ところが現在では、街角のデリで売っているような、【SUSHI】は皆に溶け込んでいる。
世界のどこでも食べられるものになった。そういった、日本を代表するものになった、という意味も含めて【SUSHI】 のように(チープではないけど)手軽なものになりたいなという願いが込められています。
【TYPHOON】は単純に、巻き込む、勢いのある、という気持ちを込めています。
最初は大勢に反対されました、「これないよねー」って(笑)。
ですが一度聞いたら忘れないので、今では皆に気に入ってもらっています。

  問題作には問題児が関わっているのかもしれない

しかし、ビジネスプロデューサーは、常に問題のあるところに、課題解決を生み出すマジシャンのような存在でもある。

映画の好悪は横に置き、衰退する日本映画を世界に売り出しにいく、千葉善紀氏の行動は、ビジネスプロデューサーにとって、多いに参考になるだろう。

次のビジネスは、ゲームと映画の融合だと言う。

DVDマーケットも縮み、ダウンロードに代わってきた。
ビジネスのモデルが従来のやり方では成り立たなくなってきた。

XBOXでは、ゲーム落とすのと、映像を落とすのと、同じラインにある。
今日はゲームを落とそう、今日は映画を落とそう、と、ゲームをやる人が楽しむ映像があり、ゲームにもなっていれば、新しいエンターテイメントを提供できるだろうと。

これまでゲームはゲーム、映画は映画と分かれていた。
ゲーム業界は、映画のようなゲームを作ろうとしていたが、すでに、そこを飛び越えて、違う面白さのあるものへと変割ってきている。

技術的には、映画と遜色ない映像が可能になった。

ジョン・ウーが監修『ストラングルホールド』というゲームでは、プレイヤーが、チョウ・ユンファになって、2丁拳銃がスローモーションで撃てるというもの。
スーパーマーケットの中でゾンビを殺しまくる『デッドライジング』というゲームなどが、映画との境界線を縮めた作品であるという。

世界に誇れる日本の産業であったゲームも、映画と同じく、世代交代の時期になってきた。
過去にヒットしたゲームの作り手は経営者になり、その次の世代が育っていない。
千葉氏の最終目標は、ゲームと映画の融合で、世界に打って出るつもりだと言う。

コメントは締め切りました。