ドイツに学ぶブランド戦略-シュタイフ-創業者の顔を忘れない
SNSは、これまでに日の当たらなかったものに輝かしい光のスポットライトを当てることが可能になった。
一方で、ビジネスの成功といわれるシェア拡大のように、数を増やすことに力を入れる人たちも多い。
事業とブランドをグローバル展開するのは、広大な市場で規模を拡大するためで、大量生産大量消費が見込まれることで、数量を売ることで、原料調達コストを下げ、工場の稼働率を上げていく。
結果、固定費が下がり利益率は上昇する。販売数を掛け算して事業を大きくするという方法である。
しかし、その商品が売れて、普及すればするほど、ブランド価値が低下するというジレンマに陥る。
そのために、とにかく売れればいいという戦略では、長期的存続は難しく、ブランド価値を生み出すこともできない。
収益力とブランド力をバランスよく扱い、持続的成長経営をする企業が、ドイツには多い。
ドイツといえば、車のポルシェ、メルセデス、BMW、アウディ、オペル、フォルクスワーゲンなど、世界で垂涎の人気だ。
総合電機メーカーのシーメンス、機械メーカーのBOSCH (ボッシュ)、光学機器のカールツァイスなど。
ファッションのアディダス、プーマ、ジル・サンダー、カバンのゴールドファイル、ブリー、靴のビルケンシュトック、カメラのライカ LEICA、筆記具のモンブラン、ラミー、時計のジン、椅子のレカロ、家具のコア、磁器のマイセン。
飲料のファンタ、スープのクノール。スキンクリームのニベアや、コーヒー器具のメリタ、菓子のユーハイムは、生活の中にもお馴染みだろう。
ドイツブランドといえば、創業者の名前が企業名になる場合が多い。ポルシェ博士が誕生させたポルシェや、創業者アダム・オペルのオペル。カール・フリードリヒ・ツァイスのカールツァイス。
アディダスは、ダスラー兄弟の弟アドルフが設立し、アドルフの愛称「アディ」と「ダスラー」をつなげてアディダス。兄ルドルフはプーマを設立した。
このように、ドイツでは創業者の名前がそのままブランドになっているケースが多く、その意とすることは、創業者のコンセプト-モノづくりの哲学が、伝統として製品にも経営にも受け継がれているということだ。
また、貴族階級向けに立ち上げたブランドならではで、大衆に迎合することなく、高級感を失うことのないブランド戦略を貫いている。そして、市場はグローバルを見ているという点が共通している。
ドイツ企業として世界に誇る企業は、数や量を拡大することよりも、一点または少量生産によって希少価値を高めるマーケティングを基本に、ブランドのファンとして、企業に対するリスペクトや信仰に近い価値を生み出している。
BPAでは、コンセプトと立ち位置(ポジショニング)という言葉が必ずといっていいほどに出てくる。
独自の主張とポジションを貫き、ほんものを愛する人物から一目置かれる存在となることで、誰にも負けないブランドを作り上げることができる。
高額なぬいぐるみテディベアで有名なシュタイフ。
マルガレーテ・シュタイフ有限会社(MARGARETE STEIFF GMBH)の基幹ブランドで、創立者のアポロニア・マルガレーテ・シュタイフは、1877年30歳の時、フェルト店「フェルト・メール・オーダー・カンパニー」をドイツに創立した。
1880年には、世界初のぬいぐるみメーカー「シュタイフ社」を創立。
有名なテディベアは1902年、マルガレーテの甥リチャードの提案で原型が考案された。
2004年、同社は、ぬいぐるみ分野では世界で初めてエコテックス規格100のライセンスを取得した。
創立者マルガレーテは1歳半で小児麻痺を患い、生涯車椅子の生活であったが、「子供には本当に良いものを」という信念から、手作りにこだわって生涯愛用できる高品質のぬいぐるみを作り続けた。
マルガレーテが、義妹へのプレゼントとして贈ったゾウの針刺しが評判を呼び、試しに販売したところヒット商品となったのがはじまりである。
すべてのぬいぐるみの左耳につけられるトレードマーク「ボタン・イン・イヤー」は、その伝統と品質の証となり、タグの色で価値(価格)が大きく異なることを、シュタイフファンは知っており、自分達のコレクションに誇りをもっている。
彼女は、小児麻痺という自分では抗うことのできない運命を、持ち前の楽天性と好奇心で、大きな成功を手に入れた。
彼女の生涯については、後日、誌面を割きたい。