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調剤薬局業界の生き残りのためのM&Aによる新業態戦略について

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BPA NEWS「調剤薬局クオールとセントフォローカンパニーが店舗数関東トップ」はご覧いただいているだろうか?

調剤薬局業界第4位のクオール株式会社が、茨城県の調剤薬局セントフォローカンパニー(茨城県中心に関東地方に35店舗を展開)の全株式を取得し、両社合計で、関東地方において保険薬局業界トップの店舗数となる。

調剤薬局業界では最大手のアインファーマシーズでも売上高1,545億円でシェアは2%程度。
本年、行われる薬価引き下げや消費増税で収益力が大幅に低下する懸念があるため、業界では駆け込み売却が続き、業界再編への動きが加速すると予想されている。

スーパーと調剤薬局、コンビニエンスストアとドラッグストアなど、大手小売りも巻き込んで活発化してきた医薬品流通業界再編の中、勝負をかけてきたクオールの拡大は見過ごすことができない。

過去に培った店舗開発力と、質の高い薬剤師を数多く抱える人材力を武器に、コンビニやドラッグ大手と次々に業務提携を結ぶ。
病院で出された処方箋を見て薬を出す製薬会社のクスリ代理店の役割のような薬局というイメージに、新たな「業態」を作り出した。

2009年6月のクオールの戦略を発見!

(これは、表に出してはいい資料なのだろうか?)

2009年12月末。東京・神田。
イオン岡田元也社長の呼びかけでグローウェルホールディングスやメディカル一光などイオン系ドラッグ事業の首脳らが集まり、グループの医療サービスの将来を話し合う場が設けられた。

イオン関係者によると、岡田社長が「高齢化社会に対応したショッピングセンター(SC)を作りたい。皆さんの力を貸してほしい」と口火を切った。
首脳らが議論を戦わせる中、招かれたクオールの中村勝社長も医療サービスの理想を語った。
イオングループとクオールの提携が本格的に動き出した瞬間だった。

小売業が医薬品に注目するのは、総合スーパー(GMS)やSCに薬局を入居させることで、病院に通院する高齢者の集客に効果があるからだ。

ドラッグストアや調剤薬局の市場規模はともに約5兆円で成長が続いている。
その中でも提携先として関心を集めるのは、一般用医薬品(大衆薬)より伸びが大きい医療用医薬品の調剤薬局だ。
セブン&アイ・ホールディングスは調剤薬局最大手のアインファーマシーズと2008年夏に資本・業務提携した。

《参考》
調剤薬局売上ランキング(株式公開をしている調剤薬局の売上ランキング)

1位 アインファーマシーズ      154,560百万円(前年対比 8.2%増) 2013/4
2位 日本調剤             139,466百万円(前年対比 7.2%増) 2013/3
3位 総合メディカル          86,658百万円(前年対比 8.0%増) 2013/3
4位 クオール             76,783百万円(前年対比16.0%増) 2013/3
5位 メディカルシステムネットワーク 54,827百万円(前年対比 -)
6位 アイセイ薬局         42,250百万円(前年対比11.6%増) 2013/3
7位 ファーマライズHD         29,607百万円(前年対比10.4%増) 2012/5
8位 メディカル一光          20,574百万円(前年対比 5.1%増) 2013/2
9位 トータル・メディカルSV      11,385百万円(前年対比37.0%増) 2012/3
10位 オストジャパンG      5,042百万円(前年対比 0.8%増) 2012/6

クオールがまず組んだのはローソンだった。
昨年6月、ローソンの一部店舗に大衆薬販売の新資格「登録販売者」を派遣し、大衆薬の実験販売に協力。
今年に入ってからはグローウェルHDとメディカル一光との業務提携を立て続けに発表した。
医薬品販売を巡る提携は今、クオールを中心に回っているといっても過言ではない。

クオールに注目が集まるのはなぜか。
ひとつは店舗の開発力だ。

調剤薬局は病院や診療所の近所に店舗を構え、その病院の患者の処方せんをほぼ唯一取り扱う「門前型」と呼ぶ立地が一般的だ。
「門前型」は病院が診療、薬局が調剤に特化する医薬分業の定着、拡大を前提にしたビジネスモデルだ。

2012年度の医薬分業率は67%。前年度からわずか1ポイントも上がっていない。
大病院の分業が一段落して毎年5ポイント前後上昇していた時期と比べると、分業拡大のピッチは明らかに鈍化。
すでに頭打ちで、「門前型」に代わる出店戦略が必要になった。

そこで、業界に先駆けて出店したのが「面対応薬局」だった。
特定の病院の患者を「点」で押さえる「門前型」と違って、どの病院が出した処方せんにも対応し患者を広い「面」で取り込むから「面対応型」と呼ぶ。

患者にとっては勤務先や自宅の近くに面対応薬局があると便利だし、繁華街や住宅街など様々な立地に店を出すコンビニやドラッグストアは、このノウハウがのどから手が出るほど欲しい。
クオール本社近くのJR四ツ谷駅から徒歩3分の場所にある四谷店(東京・千代田)は、木目基調の落ち着いた店内が来店しやすい雰囲気を演出。昼休みや夕方には処方せんを持った会社員らが多く訪れる。

こうして「薬局+コンビニ融合」の新業態が広がっていった。

薬剤師による高度専門情報の提供と医薬品に関するカウンセリングサービスの実施し、店は24時間営業だが、調剤室は時間限定で運営し、薬剤師の人件費を抑制。
薬剤師不在の時間帯には、テレビ電話で店舗とクオールのコールセンター(24時間薬剤師が常駐)を結び、同様のサービスを提供する。
処方せん薬から大衆薬、サプリメントまで幅広く対応。通常のコンビニエンスストアの取扱商品のほか、ヘルスケア関連の商品を強化し、総品揃え数約3,000 アイテム/医薬品数約220 アイテムを完備。第1~第3類の医薬品販売する。(第2~第3類の医薬品は24時間販売を予定)

グローウェルHD、メディパルHDと業務提携。
これまでの既存ドラッグストアは化粧品や大衆薬などで20〜30代の女性がターゲットであったが、医療用医薬品や介護用品などを手厚くそろえ、40代以上もターゲットにした。

メディカル一光とは店舗開発・運営のノウハウを共有し、薬剤師の教育でも協力し合う。
クオールは首都圏、一光は中部・関西を地盤としており、相互の物件情報を活用するなど出店地域の拡大でも協力可能だ。

クオールが他の小売業と一線を画すもうひとつの理由がある。

それは薬剤師の教育水準が高いということだ。

クオールは、常務取締役大島美岐子氏という薬剤師を、薬剤師の教育研修担当役員として配置する。
「薬剤師の母」と称され、多くの薬剤師のロールモデル的存在で、独自の認定薬剤師制度を立ち上げ、ぜんそくや消化器系など15疾患で専門的な服薬指導ができる薬剤師の育成を進めている。

2013年5月現在、約2,000名の薬剤師が認定されている。
テーラーメード医療など医療現場で治療方法が細分化されていく中、「薬剤師もスペシャリストの育成が必要」(中村社長)との考えからだ。
国が認定する基礎的な資格を取った上で、自社に合わせた接客から専門知識までを兼ね備えた高度な薬剤師を雇い入れるというノウハウは、人材を育てることに四苦八苦している企業からすれば、多いに参考になるだろう。

昭和大学横浜市北部病院前店舗を「高機能薬局」と呼ぶ店に全面改装。
高度な医薬品を豊富にそろえ、新たに感染症患者の専用待合室やブースに分けた待合室も設けている。
子ども向け入り口と待合室、産婦人科の女性向け入り口と待合室とに分けた薬局は、不妊治療に通う患者様のための心配りであるのだろう。
子会社で進める抗がん剤などの治験事業も薬剤師の質向上につながっている。

こうした大きな戦略的視点と、女性取締役のきめ細やかな視点が上手く絡み合った新業態を創り出すということは、まさにビジネスプロデュースといえるだろう。

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